いわゆる「やりもらい動詞」では起点も着点も「に」で表すことができる。
(1)
a. 太郎は次郎に一万円をもらった。
b. 太郎は次郎に一万円をあげた。
(1a) も (1b) も同じ格構造をしているが (1a) の「に」は起点を表し、 (1b) の「に」は着点を表している。しかし
(2)
a. 太郎は教授に注意を受けた。
b. *太郎は教授にボールを受けた。
c. 太郎は教授からボールを受けた。
「受ける」は (2a) のように「注意」の場合は「に」格で起点を表すことができるが、 (2b) のように「ボール」では「に」格で起点を表そうとすると非文となる。(2c) のように明確な起点を表す「から」を使わなくてはならない。岸本 (2012) は「に」格が起点も着点も表すためには「所有の移転」が生じなくてはならないと分析した。 (2a) の「注意」の場合はその所有権が教授から太郎に移ったと考えることができるが、 (2c) の「ボール」になると所有権の移転ではなく、単なる場所の移動が生じただけなので (2b) のように非文になるとしている。