場所句倒置は非対格動詞で生じるというのが基本ではあるが、非能格動詞でも出現や存在を表すような場合には文法的となる。となるといったい何が倒置を可能にしているのかわからなくなってしまうが、文脈の中の情報が大きな鍵を担っていることは明らかである。
(1)
a. Into the room ran a boy.
b. *In the room ran a boy.
(1a) は文法的であるが (1b) は非文となる。 (1a) は a boy に焦点が置かれるが (1b) は焦点はむしろ in the room や ran にあるような気がする。それにも関わらず重要な新情報を担う場所に a boy があるのがどうしても変なのである。文尾の名詞句に焦点を与えるような情報を置くと多分 (1b) のような文でも可能になるのではないだろうか。
(2)
a. In the room ran a boy wearing a samurai hair style.
英語の intuition がないからなんとも言えないが (2a) は (1b) よりははるかの良いような感じがする。すると出現や存在を表すような場合に場所句倒置が起きるという仮説はちょっと問題となってしまう。そもそも場所句倒置は discourse 上の要求から要請されるので短文でのみの分析にはいろいろと制限があるのであろう。
(3)
a. I walked into the room. And a boy ran into the room. Then other classmates joined us.
b. #I walked into the room. And into the room ran a boy. Then other classmates joined us.
(3a) は問題ないだろうが (3b) は変である。 Into the room ran a boy. と場面に a boy を登場させたら、次の文はその the boy の描写でなくてはならないのに別の文が続いてしまう。場所句倒置は短文のみの分析では片手落ちになってしまうのであろう。