ブルチオの一般化とは格とΘ役割との間の関係を表したものである。主語にΘ役割を与えることができる動詞しか目的語に対格を与えることができない。これがブルチオの一般化で受動構文の説明に応用される。
(1)
a. John blamed Tom.
b. Tom was blamed by John.
c. Tom was blamed.
d. [Φ was blamed Tom.]
(1c) の受動文はもともとは (1d) から派生したもので主語の位置はΦであった。 was blamed は blame に過去分詞がついて Tom に格を付与する能力が吸収されてしまい (1d) の Tom に対格を付与できなくなった。だから Tom は格を付与されようと主語の位置に移動して主格を得たと分析されていた。Tom はもともと blame からΘ役割を得ているので was blamed は主語にΘ役割を付与することができないので (1d) の Tom も対格を付与されないと考える。このように考えるといわゆる能格動詞や中間動詞の分析も同じようにできる。
(2)
a. The ice melted.
b. [Φ melted the ice.]
c. This reads easily.
d. [Φ reads this easily.]
(2a) や (2c) は (2b) や (2d) から派生されたと考えられる。しかし受動態も能格動詞も中間動詞も同じように扱うことはできない。
(3)
a. This boat was sunk by John.
b. *This boat sank by John.
(3a) のようには言えるのであるが (3b) のようには言えないからである。受動態は動作主のΘ役割を吸収することはできるが削除することはしないのである。一方、能格動詞や中間動詞はΘ役割を削除してしまうのである。この違いが to 不定詞のコントロールともかかわってくる。
(4)
a. This boat was sunk to save the people.
b. *This boat sank to save the people.
(4a) は文法的で to save the people は「沈めた人」であるが (4b) は非文となる。(4b) にはどこにも沈める人が現れないからである。