英語の代名詞は日本語では主にゼロ代名詞を使っているので理解するのになかなか大変である。
(1)
a. John dropped out after he tried LSD.
b. After John tried LSD, he dropped out.
c. After he tried LSD, John dropped out.
d. He dropped out after John tried LSD. (Wasow, 1979)
代名詞が何を指すかで (1a), (1b), (1c) は John = he の関係がなりたつが、 (1d) だけは He ≠ John となる。学生の頃、まさに GB 理論の真っ最中であったころこの束縛理論や統率理論にかなりの時間を割いていた。でも結構、複雑でこんがらがっていた。束縛理論によると「代名詞は先行詞をC統御してはならない」という規則が働いているのである。そうすると (1b) が問題なのであるが (1b) は先行詞が代名詞に先行するから問題ないのであろうか。 (1d) の代名詞が後の名詞を指さないのは理解できる。これに音形のない代名詞 PRO がかかわってくるともっと複雑になる。
(2)
a. Realizing that he was unpopular disturbed John.
b. Realizing that John was unpopular disturbed him.
c. Mary's realizing that he was unpopular disturbed John.
d. Mary's realizing that John was unpopular disturbed him.
(2) のような例文は多分 Ross が言ったのだと思うが (2b) は he ≠ John であり (2a) と (2c) と (2d) では he = John となりえる。これは動名詞や不定詞には明示的な主語がない場合は音形のない代名詞の PRO が存在してそれは disturb のような心理動詞では目的語と一致するからである。